FX会社の体力はどこで分かる?自己資本規制比率140%と120%の線
自己資本規制比率って、何を何で割った数字?
分母はリスク、分子はすぐ動かせる自己資本です。金融商品取引法第46条の6第1項は、資本金・準備金その他の内閣府令で定めるものの額の合計額から、固定資産その他の内閣府令で定めるものの額の合計額を控除した額を分子に置き、保有する有価証券の価格の変動その他の理由により発生し得る危険に対応する額の合計額を分母に置く、と書いています。
ざっくり言えば「損が出たときに、すぐ現金化できる自己資本がどれだけ残っているか」の割合。土地や建物のように換金に時間がかかるものは分子から抜かれるので、帳簿上の総資産が大きい会社が自動的に有利になるわけではありません。
この比率は算出して終わりではなく、同項が毎月末と内閣府令で定める場合に内閣総理大臣へ届け出ることまで義務づけています。会社が自分の判断で公表を止められる数字ではない、というのがここのポイントです。
分母のリスクは、金融庁の「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」IV-2-1が、市場リスク相当額と取引先リスク相当額を毎営業日把握し、リスク管理について責任を負っている取締役が了知しているかを確認する、としています。年に1回まとめて計算する類の数字ではありません。
なぜ120%が下限なの?
120%を下限と決めているのは監督指針ではなく法律そのものです。金融商品取引法第46条の6第2項は一文だけで、「金融商品取引業者は、自己資本規制比率が百二十パーセントを下回ることのないようにしなければならない」と書いています。
100%ではなく120%に線が引かれているのは、100%が「リスクと同額の自己資本しかない」状態だからです。そこまで落ちてから対応を始めると間に合わない。だから2割の余白を残した位置に法律上の下限を置き、さらにその手前を監督が見る、という二段構えになっています。
監督指針IV-2の柱書きは、この規制の目的を「市況の急激な変化に伴う収入の減少や保有資産の価値の下落等に直面した場合においても、金融商品取引業者の財務の健全性が保たれ、投資者保護に万全を期すこと」と説明しています。守っている対象は会社ではなく、口座を持っている側。
140%・120%・100%で何が変わる?
数字が下がるにつれて、当局の関与は「ヒアリング」から「命令」へ、そして「登録取消」へと段階的に強くなります。監督指針IV-2-2と金融商品取引法第53条を並べると、こうなりました。
| 水準 | 根拠 | 起きること |
|---|---|---|
| 140%を長期にわたり/繰り返し下回る | 監督指針IV-2-2(1) | 金融商品取引法第56条の2第1項にもとづく報告徴求などで、比率の状況の把握に努める |
| 140%を下回り、府令の届出が出た | 金商業等府令第179条第3項 | 「自己資本規制比率の状況を維持するために自らとるべき具体的措置に関する計画書」を確認し、ヒアリング等で自主的な改善を促す |
| 120%を下回る | 監督指針IV-2-2(2)/府令第179条第5項 | 「回復させるために自らとるべき具体的措置に関する計画書」を確認。顧客資産の分別管理の状況、資金繰りの状況を把握する |
| 120%を下回り、必要と認められる | 金融商品取引法第53条第1項 | 業務の方法の変更、財産の供託その他監督上必要な事項の命令。会社財産を不当に費消する行為を行わないこと等が命じられる |
| 100%を下回る | 同法第53条第2項 | 3月以内の期間を定めて、業務の全部または一部の停止を命ずることができる |
| 停止から3月経過しても100%未満 | 同法第53条第3項 | 回復する見込みがないと認められるとき、第29条の登録を取り消すことができる |
140%と120%のあいだには、監督指針の書き分けとしてはっきりした差があります。140%側で確認されるのは「維持するために」の計画書で、120%側は「回復させるために」の計画書。維持と回復では、その時点で会社が置かれている状況がまるで違う、と読めます。
120%を下回った局面で当局が把握しようとする項目に、顧客資産の分別管理の状況が並んでいるのも見逃せません。会社の財務と、預けた証拠金が守られているかは別の話として管理されている。ここはFX会社が倒産したらお金はどうなるかの記事ともつながります。
53条1項の命令として監督指針が挙げている中身は、かなり具体的です。有価証券・金銭等の適切な保全管理、資金繰りのきめ細かな管理、会社財産を不当に費消する行為を行わないこと、そして自己資本規制比率回復のための具体策を反映した日々ベースの貸借対照表・資金繰り・見通しの策定。月次でも週次でもなく日々ベース、という書きぶりが状況を物語っています。
数字はどこで見られる?縦覧できるのは3か月だけ
四半期ごとに、営業所で読めます。金融商品取引法第46条の6第3項が、四半期の末日における自己資本規制比率を記載した書面を作成し、その末日から1月を経過した日から3月間、全ての営業所または事務所に備え置いて公衆の縦覧に供しなければならない、と定めているためです。
ここには2つ、知っておくと得な性質があります。ひとつは開始が四半期末の翌月からということ。3月末時点の数字なら、読めるようになるのは5月に入ってからです。もうひとつは備え置きが3か月で終わること。過去にさかのぼって全期分を並べる、という使い方は想定されていません。
実務上は、多くのFX会社が公式サイトの決算・財務情報のページにも同じ数字を載せています。口座を開く前に社名と「自己資本規制比率」で検索してみて、直近の四半期の数字が出てくるかどうか。出てこなければ会社に聞けばいい話で、これは正当な質問です。
そもそもその会社が国内で登録を受けているかどうかは、金融庁の「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」で確認できます。登録がない相手には、この46条の6の枠組みそのものが及びません。
勘違いしやすい2つのこと
1. 比率が高い=取引で勝てる、ではない
自己資本規制比率が測っているのは会社の財務の健全性であって、口座を持つ側の成績ではありません。比率が1000%を超える会社で取引しても、為替が逆に動けば損失は出ます。ロットの決め方はレバレッジと証拠金維持率の記事のほうが本題です。
逆に言えば、この指標で比べられるのは「その会社が続くかどうか」の一点だけ。スプレッドやスワップの条件とは別の軸なので、比較表に1列足す感覚がちょうどいいと思います。
2. FX業者にはもう一段の目線がある
監督指針IV-2-1(3)には、FX業者だけを名指しした一文があります。顧客から約定元本の一定率の証拠金の預託を受け、差金決済による外国為替の売買(いわゆる外国為替証拠金取引)を扱う金融商品取引業者については、為替相場の急激な変動などが財務の健全性や自己資本に及ぼす影響を的確かつ適正に把握できるリスク管理及び内部管理態勢を整備しているか——という確認項目です。
4社ぶんの数字を並べて比べるより、まず自分の口座がある1社の直近の四半期を見る。レッツ北側がこの条文を読んで思ったのは、そのくらいの距離感でちょうどいいということでした。数字が3か月で入れ替わるなら、追いかけるのは1社で足ります。
よくある質問(FAQ)
Q. 自己資本規制比率は何パーセントを下回ってはいけないのですか?
金融商品取引法第46条の6第2項が「自己資本規制比率が百二十パーセントを下回ることのないようにしなければならない」と定めています。120%が法律の線です。金融庁の監督指針はその手前の140%を、報告徴求などを検討する目安として書いています。
Q. FX会社の自己資本規制比率はどこで見られますか?
同法第46条の6第3項により、四半期末の比率を記載した書面を作成し、その末日から1月を経過した日から3月間、全ての営業所または事務所に備え置いて公衆の縦覧に供することが義務づけられています。各社の公式サイトでも、決算関連のページに載っていることが多いはず。
Q. 100%を下回るとどうなりますか?
同法第53条第2項により、内閣総理大臣は3月以内の期間を定めて業務の全部または一部の停止を命ずることができます。同条第3項では、その日から3月を経過した日も100%を下回り、回復する見込みがないと認められるときは、第29条の登録を取り消すことができる、という順番。
Q. 比率が高い会社を選べば損はしませんか?
いいえ。この指標が測っているのは会社の財務の健全性であって、利用者の取引成績ではありません。取引による損益はレバレッジやポジションの持ち方で決まるので、比率の高い会社を選んでも為替変動による損失そのものは避けられません。