あなたの注文は記録されている?店頭FXに課された保存と報告の義務
5,000兆円の市場を点検した有識者検討会
出発点は、金融庁が2018年2月に設置した「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」です。同年2月から6回にわたって議論が行われ、2018年6月13日に報告書が公表されました。
背景にあったのは規模の大きさです。金融先物取引業協会の解説によれば、金融庁は年間取引規模が5,000兆円程度まで拡大した店頭FX取引について、仮に業者が破綻すれば顧客やカバー取引先に大きな影響があるほか、外国為替市場や金融システムにも影響を及ぼし、システミックリスクに繋がる可能性を有しているのではないかと考えました。
報告書が示した今後の課題は3つ。(1)ストレステストを通じた自己資本の拡充、(2)取引データの報告制度の充実、(3)未カバーポジションの情報開示です。この3つがそのまま、内閣府令の改正によって規制になりました。
保存は21号の7、報告は21号の8
条文は2本に分かれています。保存が金融商品取引業等に関する内閣府令第123条第1項第21号の7、報告が同項第21号の8です。協会規則に基づいて取引情報を保存し、協会へ報告する体制を整えること、という建て付けになっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保存の根拠 | 金融商品取引業等に関する内閣府令 第123条第1項第21号の7 |
| 報告の根拠 | 同 第123条第1項第21号の8 |
| 内閣府令の改正 | 2019年8月1日施行/2021年4月1日適用 |
| 協会の自主規制規則 | 2019年8月20日制定/2021年4月1日施行 |
| 取組み状況の確認 | 協会の実地監査など |
ここで見落とされやすいのが、施行日と適用日がずれている点です。2019年8月1日に施行されてから、実際に適用が始まる2021年4月1日まで1年8か月。体制を整えるための猶予が置かれていた、と読めます。協会規則のほうも同じ2021年4月1日施行で足並みが揃えられました。
協会はこの制度について、主に不公正取引の防止の観点から求められたものだと書いています。守ろうとしているのは、価格が適正に提示されているかという一点です。
同じ検討会から生まれた、もう2つの規制
取引データの報告だけが独立して作られたわけではありません。残り2つも同じ報告書から出ています。
ストレステストの実施義務
報告書は「厳格かつ適正なストレステストを実施し、その結果を必要となる自己資本に反映させていくことが適当」としました。これを受けた内閣府令の改正は2019年4月1日施行・2020年1月1日適用で、根拠は第123条第1項第21号の4。協会の規則は2019年3月25日制定・2020年1月1日施行です。
この流れの起点は、さらに前にあります。2015年1月のスイスフラン・ショック以降、協会は会員の為替リスク管理態勢の強化に取り組み、各社共通の実施要領によるストレステストを2016年2月と2017年4月に実施。2017年10月施行の協会規則で継続的な実施を義務づけていました。業界が先に動いて、あとから法令が追いついた形です。
未カバーポジションの情報開示
過大な未カバーポジションを持つ業者は、為替相場が急変動するとその影響を直接受けます。そこで、以下の3つのリスク情報を適時開示することが金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第1項第28号の2で義務づけられました。
- 未カバー率──カバーされていないポジションは、為替相場の変動の影響を直接受けることになります
- カバー取引の状況──カバー取引先が破綻した場合には、再構築コストなどが発生することになります
- 平均証拠金率──証拠金率が低い場合には、顧客未収金リスクが大きくなります
この3つは各社が自社のホームページで公表しています。協会は、当該リスク情報を確認することが、取引相手先の信用状態を把握するための有効な手段の1つとして考えられる、と書いています。利用者が自分の目で見られるのは、この3つです。
利用者の側で開ける3つの数字
保存・報告された取引データそのものは、利用者が直接請求して見られるものではありません。あくまで協会と業者のあいだの仕組みです。ただ、口座を選ぶときの見方は変わります。
- 候補の会社の公式サイトで、未カバー率・カバー取引の状況・平均証拠金率の3つが公表されているかを見る
- 数字の高低より、どの期間の数字がいつ更新されているかを見る(適時開示が義務なので、古いまま止まっているのは気になるポイント)
- 財務の体力とあわせて見る。自己資本規制比率の読み方はFX会社の体力はどこで分かる?自己資本規制比率140%と120%の線にまとめました
- そもそも日本で登録を受けた業者かどうかを先に確かめる(無登録の海外業者には、この保存・報告の義務そのものが及びません)
記録があれば、滑らないということ?
いいえ。保存と報告の義務は、あとから検証できる状態を作る仕組みであって、約定価格そのものを保証する制度ではありません。指標の発表時など流動性が薄くなる場面で、提示レートが動くこと自体は起こり得ます。
それでも、検証できる形でデータが残るという前提は、取引の不安をひとつ減らしてくれます。感覚で「やられた」と思うのと、制度としてどこまで見られているかを知っているのとでは、次の一手の落ち着きが変わるからです。
よくある質問
Q. 店頭FXの取引データは、誰がどこまで持っているのですか?
店頭FX業者が取引情報を保存し、金融先物取引業協会へ報告します。根拠は金融商品取引業等に関する内閣府令第123条第1項第21号の7(保存)と第21号の8(報告)。協会は2019年8月20日に規則を制定し、2021年4月1日から施行しています。
Q. この義務はいつから始まったのですか?
内閣府令の改正は2019年8月1日施行で、実際の適用は2021年4月1日から。施行日と適用日が別に置かれた二段構えです。きっかけは2018年6月13日に公表された有識者検討会の報告書でした。
Q. 報告されたデータは何のために使われるのですか?
協会は、この制度が主に不公正取引の防止の観点から求められたものだと説明しています。取組み状況は協会の実地監査などで確認されます。
Q. 同じ検討会から、ほかにどんな規制ができたのですか?
ストレステストの実施義務(第123条第1項第21号の4/2019年4月1日施行・2020年1月1日適用)と、未カバーポジションのリスク情報開示(第117条第1項第28号の2)です。
Q. 利用者が自分で確認できることはありますか?
未カバー率・カバー取引の状況・平均証拠金率の3つは各社が自社サイトで公表しています。協会は、これらの確認が取引相手先の信用状態を把握するための有効な手段の1つだとしています。